憲法審査会での発言
2019年11月8日お知らせ
昨日、憲法審査会が開かれ、欧州視察報告を行った。以下は私の発言である。
1 ドイツでは1949年の基本法制定以来63回、ウクライナでは1996年の憲法制定以来6回の改正が行われている。しかし、それぞれ我が国とは状況が異なり、憲法改正の回数が多いという点だけをとりあげて、改正をしたことがない日本が特殊だ、ということにはならない。
ドイツ基本法は、その名称どおり、法律であり両院の3分の2の賛成で改正できる。国民投票は不要だ。また、連邦制度をとっているため州と連邦の権限についての規定が多く、日本なら地方自治法の改正ですむものが、憲法(基本法)改正によらなければならない。直近の改正も、デジタル教育について中央政府から各州に資金を交付できるようにするための改正であった。
視察でお話を伺ったクリストフ・メラーズ フンボルト大学教授によればドイツでは「連邦制に起因する改正が大部分」とのことであり、分権改革などの大改革が法律改正でおこなわれてきた我が国とは制度が異なる。
ウクライナは、基本的人権・憲法改正等に関わる部分以外は、国民投票が不要であり、一院制であるため2回の議会決議(1回めは過半数、2回目は3分の2)で改正できる。実際行われた改正はいずれも国民投票が不要な統治機構に関するものだ。憲法改正に関して国民投票が行われたことはない。
2 ドイツにしてもウクライナにしても、国民投票が必須である我が国とは状況が大きく異なる。その上で参考とすべきと感じる点について3点申し上げたい。
- 第一点は国民投票法制についてである。国民投票により憲法改正案が否決されたイタリアの例について、メラーズ教授が必要なことは運動の「お金の動きを明確にすべき」と語ったのは印象的であった。また、CM規制についてドイツのメディア監督局に聞いたところ、そもそも選挙の際、スポットCMが行われていないとの回答であった(この点については後日資料を送ってもらうことになっている)。また、ネットの広告規制について検討を行っているとの発言もあった。ドイツの視察で、我が党が国民投票法改正案に盛り込んでいるCM規制や国民投票運動資金の規制の必要性が、あらためて確認された。また、ウクライナでは、議会での制定手続きが違憲であるとの理由で国民投票法が失効している。国民投票法の制定や改正については、与野党のコンセンサスが必要であると改めて考えさせられた。
- 第2点は、両国と日本の大きな違いは憲法裁判所が設けられている点だ。一定の要件を満たせば、憲法改正そのものや個別の法律が憲法違反かどうか判断を下すことができる(抽象的違憲審査制)。私の「日本では9条の解釈が問題となっている。日本の憲法は条文数が少なく解釈の余地がある部分が多い。(例えば、旧3要件又は新3要件を)ドイツのように具体的に条文に書けば、解決するのではないか」という質問に対し、メラーズ教授は、「どれほど細かく書いても解釈の余地は生まれる。必要なのは憲法裁判所だ」と断言した。憲法裁判所に対する強い信頼が伺われる。ウクライナでも憲法裁判所が強い権限を有しており、憲法改正案に対して憲法裁判所の意見を聞かなければならず、この段階で違憲の判断が出ると改正できなくなる。ただしウクライナでは憲法裁判所の政治的中立性が疑われたため、組織改正の憲法改正が2016年に行われていることには留意しなければならない。我が国の最高裁は憲法判断をほとんど行って来なかったため、憲法解釈を専ら担ってきたのは内閣法制局だが、あくまで政府の機関であり、トップは総理が自由に任免できる。ときの政権による恣意的な憲法解釈・憲法改正を防ぐため、抽象的違憲審査制を持つ「憲法裁判所」の設置について検討すべきと、強く考えさせられた。以上、公正に民意を反映できる「国民投票法」と政権から中立的な「憲法裁判所」がセットになってはじめて、憲法改正の議論ができる、というのが私の今回の視察の結論だ。
- 最後に、緊急事態条項に触れておきたい。ドイツもウクライナも憲法にいわゆる国会緊急権が規定されている。ドイツでは、東西冷戦下の1968年、大連立政権により、設けられたが、法律によらず命令で国民の権利を制限できるような規定はなく、また自由権を制限するような規定もない。メラーズ教授も、「民主主義をおかすような形にはなっていない」と述べておられた。ウクライナ憲法は、非常事態が布告されると広範な人権を制限できる。憲法上は通信の秘密や思想及び表現の自由も制限できる作りとなっている。ウクライナでは、現在東部で戦闘が行われているにもかかわらず、現在非常事態は宣言されていない。議員任期が自動的に延長されるため選挙ができなくなるのが主な理由と聞いたが、国家にあまりに広範な権限を与えるため実際の布告には慎重であると理解した。これらの例をみても、我が国の現行法制で十分であり、いわゆる緊急事態条項についてただちに日本国憲法の改正が必要だとは言えないのではないか。
以上3点を申し上げて終わらせて頂く。