1. 憲法改正の前提〜憲法審査会視察を終えて〜

憲法改正の前提〜憲法審査会視察を終えて〜

憲法審査会でドイツ・ウクライナを視察した。ドイツでは63回(1949年制定)、ウクライナでは6回(1996年制定)の憲法改正が行われている。しかし、結論から言えば、それぞれ状況が異なり、憲法改正の回数が多いという点だけでは、日本の参考にならなかった。
 
 ドイツ基本法は、その名称どおり、法律であり両院の3分の2の賛成で改正できる。国民投票は不要だ。また、連邦制度をとっているため州と連邦の権限について多く規定されており、日本なら地方自治法の改正ですむものが、基本法改正に依らなければならない。「連邦制に起因する改正が大部分」(クリストファー・メラーズフンボルト大学教授)である。
 ウクライナは、基本的人権・憲法改正等に関わる部分以外は、国民投票が不要であり2回の議会決議(1回めは過半数、2回目は3分の2)で改正できる(なおウクライナは一院制をとっている。)。実際行われた改正はいずれも国民投票が不要な統治機構に関するものだ。憲法改正に関する国民投票は行われたことがない。
いずれの国も、憲法改正に国民投票が必須である我が国とは状況が大きく異なる。
 もう一点、両国と日本の大きな違いは憲法裁判所が設けられている点だ。一定の要件を満たせば、憲法改正そのものや個別の法律が憲法違反かどうか判断を下すことができる(抽象的違憲審査制)。
私の「日本では9条の解釈が問題となっている。日本の憲法は条文数が少なく解釈の余地がある部分が多い。(例えば、旧3要件又は新3要件を)ドイツのように具体的に条文に書けば、解決するのではないか」という質問に対し、メラーズ教授は、「どれほど細かく書いても解釈の余地は生まれる。必要なのは憲法裁判所だ」と断言した。憲法裁判所に対する強い信頼が伺われる。ウクライナでも憲法裁判所が強い権限を有しており、憲法改正案に対して憲法裁判所の意見を聞かなければならず、この段階で違憲の判断が出ると改正できなくなる。(ただしウクライナでは憲法裁判所の政治的中立性が疑われそのための憲法改正が2016年に行われている)
 
 地方分権や解散権、参議院のあり方など我が国でも統治機構の部分は憲法改正を検討する余地があると考えている。しかし、まずは憲法裁判所ではないか。
 我が国の憲法解釈を専ら担ってきたのは内閣法制局だが、あくまで政府の機関であり、トップは総理が自由に任免できる。政府・与党による恣意的な憲法解釈・憲法改正を防ぐため、抽象的違憲審査制を持つ「憲法裁判所」の設置について検討すべきだ。
 
 公正に民意を反映できる「国民投票法」と中立的な「憲法裁判所」がセットになってはじめて、安心して憲法改正の議論ができる、というのが私の今回の視察の結論だ。

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